2018年4月14日土曜日

ランツ ブルドッグ D2806 あれこれ

◆◆◆◆昔の記憶◆◆◆◆

lanz bulldog D2806

  私がドイツ製トラクター「ランツ・ブルドッグ」を好きになったきっかけは、1990年頃、札幌に存在した小さな洋書店でランツ本に買った時でした。

元々ランツの存在は知ってはいたものの、その表紙に描かれた断面図で「シャシー前半が巨大な単気筒シリンダーで出来ている」事を知って驚きました。

2ストロークエンジンの構造図をそのまま巨大にして水平にした様な姿に「え?それでいいの?」という驚き。その当時気になって仕方なかったタトラ自動車にも通ずる大胆でシンプルで効率的なメカに一目惚れしたものです。

それから数年経った世紀末、当時、良質なトラクター記事(矢吹氏による)が掲載されていたオールドタイマー誌でトラクター博物館【土の館】の存在を知り訪ねました。

するとなんと!展示棟の前でランツD2806が出迎えるように展示されているではないですか!憧れのランツ・ブルドッグだ!

いや、本当の憧れは戦前から戦後しばらく生産された「焼き玉」ランツですが、それは当時は日本に存在しないと思っていたし、かといって後の「フルディーゼル」時代にはデザインが大きく変わってしまうので、戦後世代でも焼き玉の面影がまだ残るD2806は十分に感動的でした。

また前輪が戦前から続く古いヨコハマタイヤのパターン(ああ一式機動速射砲・・・)なのも日本で実使用された当時物の証として嬉しく思ったものです。

◆◆◆◆希少なランツ◆◆◆◆

戦後の型といっても昭和20年代後半の日本では北海道ですらトラクター普及が始まったばかりなので、戦前から続く焼玉エンジンは勿論、その後継であるHalbdiesel(ランツが称する半ディーゼルの意/ガソリン始動)時代のランツも輸入台数は少ないです。
この半ディーゼル版28馬力にあたるD2806の場合は1953と54年に北海道で12台が納入されただけで、しかも個人ユーザーの購入は1台のみだったらしい希少品です。
この土の館の製造1273番車は1953年製と推測します。

1955年にはVolldiesel(フルディーゼル)のD2816がデザインを一新して登場しますが、この世代になると20馬力が多く28馬力は他の小型のモデル程は見かけません。

◆◆◆◆後年にもう一台◆◆◆◆

lanz bulldog D2806 2015
そして驚いたことに2015年にもう1台、つまり12台中の2台目が出現しました。こちらはジョンディア・ランツ風の塗装が気になりますが当然後で塗り替えたものの様です。

形状的にはフェンダー前にステップ(雑具箱?)が追加されフェンダー上面が拡大されている事がこの個体の特徴です。
また車体下部と後部に何やら小さいプーリーが追加されていました。

ホイールは前後とも土の館と違うタイプですが海外の写真でも見られるので純正なのでしょう。また、前タイヤは新しめの3本リブタイヤに交換されていますが、ドイツ的なゴツゴツしたラグ付きの前輪でないと意外と雰囲気が欠けるものだなぁと思ったりもしました。

粋な演出で牽引具にランツ名物の巨大ピストンがぶら下がっています。ただ野暮な事を言えば輸入台数的に別機種のピストンなのかもしれません。

◆◆◆◆記念すべき1/43ランツD2806‼◆◆◆◆

さて、前回1/43のランツブルドッグを8種類紹介しました。実はこれだけ模型化されているにも関わらず戦後ランツにはまだまだ多くの車種があり、国内に輸入され実車が現存する車種は狙った様にコレまで製品になっていないのでした。

 そして先日、9種目の1/43ランツをゲット!
IXO 1/43 lanzbulldog d2806 hachette traktoren-sammlung
ジャーンという事で、記念すべき「日本国内に実車が現存する戦後ランツの1/43ミニカー」の最初のモデルが登場したのです。それがこのD2806。

冒頭なぜ昔話みたいな事を言い出したかというと、思い入れのある特別な一台!と強調して喜びを伝えたかったのです。

IXO 1/43 lanzbulldog d2806 hachette traktoren-sammlung
さて、現在は館内展示されている土の館の個体を見比べると、実車は後輪ホイールを反転してワイドトレッド化している以外は基本的にプレーンな仕様に見えます。排気系は黒が正解っぽいので後にボディ色に塗ったのでしょう。

こうして見比べるとIXOはフェンダーに対して胴体の高さが足りないのですが、IXOのトラクターらしく雰囲気は大変良好です。
IXO 1/43 lanzbulldog d2806 hachette traktoren-sammlung
この世代は焼玉時代に比べるとボディ前部を1ブロック分延長した形になり、ボディからマフラーを出す形になるのがこの時期だけの特徴です。
独特の馬面ですが見慣れるとこれはこれで格好悪くはない気がしてきます(笑)

ランツブルドッグ D2806 土の館
その排気系、それまでの様な一体の排気管ではなく、ラジエターの下あたりから出た排気管がノーズ内にある「箱」へ一旦迂回してボディからマフラーを通す構造です。
 チャンバー?消音?煤取り?なにやら複数の効果が有りそうですが、おかげで森林鉄道の蒸気機関車みたいだったマフラーの膨らみが緩和されたのだと思われます。

 この頃には電気式のエンジンスターターが装備されますが、外れたファンベルトのカバーの中に手動ハンドルも残っていています。緑の車両は排気管の下に何やら小さなプーリーが付いています。
実物と比べるのは酷ですがヒッチ回りも1/43ならば十分の出来かと。

2ストローク単気筒ディーゼル、水平シリンダーの横置きエンジンで、デフ以外はほぼ横軸の平歯車で構成される魅力的なメカですが、さすがにPTOは90度曲げて後方に出しています。

anz bulldog D2806 ホイール

anz bulldog D2806 ホイール

ところで当初、土の館がホイールを反転しているとは想像しましたが、そうだとすると表面と裏面でプレス形状が一致しないのは変なので確証が持てませんでした。気になりだしたのでワザワザ確認しに行きました(笑)

実は予想に反してプレスによる凸凹ではなく、ハブ部分はチャップリンの帽子というか幼稚園児のフェルト帽子というか、そんなお椀形の別部品を溶接していたのですね。なるほど表と裏で溶接箇所が違うので強度はバッチリでしょう。
勿論1/43モデルでは裏面の再現はされていません。

こんな感じ

ところで1/43モデルのベースには「1951」と表記されているのですが、どの資料を見ても製造年は1952~1955となっています。この模型はドイツ・アシェットTraktoren Sammlungの付録ですが冊子の方でも1952~1955と書いてあるのにどうした事か・・・IXO製品版が出たら変わるのかなぁ。

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