この腕木式方向指示器にも、車の生産時から付いたボディ内に格納されるタイプと、ボディの外に取り付ける2タイプがあり、その外付け型で日本で圧倒的に普及したのが「アポロ工業」の製品でした。その成功から次第にアポロ社製でなくとも腕木式であれば「アポロ」と呼称される事になったそうです。
さて、当ブログ的視点でトラクターとアポロの絡みを見てみましょう。歴史的には日本でトラクターの普及が始まった時期が(早い北海道ですら)昭和30年頃からであり、既に自動車におけるアポロ式の全盛期は過ぎていました。ちょうど使用率が減っていくのと反対にトラクターが普及していった形になり、恐らくその為に使用例が少なく、今のところ私が知る現存車は下記の西ドイツ車3台しか有りません。今後の新発見を期待したいところです。
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小松ノルマーグ NG22 (NG20b) 上富良野の「土の館」より非常に現存数の少ないトラクターです。ドイツのノルマーグはコマツが自社製トラクターを生産する以前に輸入販売とノックダウン生産していたメーカーで、この個体は昭和31年当時に94万円で購入された物だそう。デカデカとNORMAGとプレスされた自己主張の強いマスクと、ロア・アッパー両アームが板バネの前輪サスペンションが魅力です。
実は「NG22」の名称で展示・解説されているのですが、エンジンの製造プレート打刻が(ENGINE TYPE)BM24b1、(ENGINE NR.) 18563、 (YEAR) 1956、(HP) 22で、該当する機種はNG20Bです。
このノルマーグのアポロは全然サビが無く驚くほど綺麗で、塩ビパイプ的な色から合成樹脂製かと思うほどです。ラベルも完璧でアポロ工業製の12V仕様なのがハッキリ分かりますが、このメーカー表示っぽくないラベルが「アポロ」が半ば普通名詞化してしまった一因かもしれないと思うのでした。取り付け金具も他で見ることのある形なのでアポロ社純正のようです。
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ランツ・ブルドッグ D 2416。先日公開された札幌農学校第2農場より。24馬力版のランツ。日本に入ってきたこの系統は20馬力のD 2016が多い様ですが製造プレートでD 2416と確認、輸出仕様ではType「H」と打刻される様なのでこれは一応ドイツ本国と同じ仕様となるでしょうか。カウル横の冷却穴が非常に大きくあまり一般的ではないタイプですが、これは1956年(昭和31)年から生産された初期の型なのかと思います。導入年は書いてありませんでしたが同31年に購入したとして、販売会社の三国商工がアポロを付けて売ったのでしょうかね?なお、展示では焼き玉エンジンとして解説されていますが、この型から焼き玉(セミ・ディーゼル)ではなくディーゼル(フル・ディーゼル)になっていると思います。
コチラのアポロはひどく錆びていますが、ボディと同色で下地は上記車両と同じグレー、ボディと調和した「ボロさ」から実使用されていた事などが推察できます。私は厚化粧に塗り直されて現役時代の痕跡を消されるより、こういった状態の方が資料として格段に優れているので好きです。現物ではAPOLLOと12Vの文字を確認出来ました。
保存を考えればこれに油や透明防錆塗料を塗るのも良いですが、まぁ北海道は湿度も高くないですし良いんじゃないでしょうかね。
いやしかし、こうして写真でみると雰囲気の有る展示場所ですな(^^)
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ランツブルドッグ55HP ウチではお初の美幌博物館から貴重な55HP!私の一番好きなトラクターで、もちろん焼き玉エンジンです。ただ、ある資料では網走地方にランツD 9506(45hp)が1台記録され、D 1506(55hp)は無いので45hpなのかも知れません。外観は同じですからまぁどちらでも良と言えば良いのですが、この個体には製造プレートが無くて確認できず残念でした。
昭和27年に北海道耕土改良事業で美幌町に導入されて賃耕に活躍、農家に払い下げられたのは10年経った37年になってから、という事で時期的にアポロはこの最初の農業団体(農協か?)の頃に付けられていていたと思われます。
ただ、ここの展示パネルにフォードソン・カウンティ・CD50(装軌トラクター型)と一緒に写った写真があるのですが、それではアポロは付いていないようです。CD50の方が後年の導入なので、もし写真のランツがこの個体だとするなら結構後から付けた事になります。まぁ写真が別車両であれば何も問題のない事ですが、この地区にそう多くあった車両でもないので興味が湧きます。
それにしても非常に凝った作りの支持架に目が行きます。ここまでの作りだとドイツ本国のオプションっぽい気もしますがどうなんでしょ。その場合アポロは日本製なので流用出来る汎用ステーという事になるのでしょうか・・・ただ、同所にあるファモール・カブも他で見たことないような凝ったウインカーステーやコーナーポールが付いて不自然に豪華、レストアが行き届いて綺麗すぎることや製造プレートが無い件も合わせて資料としての信憑性は判断しかねます。
ここのランツは再生されているとはいえ元々の状態から非常に良かったようで、大きな欠品も特に見あたらず、現存を確認できる3台の同型車のなかでも最高の物です。予備知識無く偶然見つけた博物館で、もう一度行ってジックリみて撮り直したいところです(実はもう一台が凄いのがあるし)。
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以前、ウチのコメント覧で「土の館のノルマーグにアポロが付いてる!」と話題になりました。その時から私にはずっとモヤモヤ感が残っていました。「他にも観た記憶がある、絶対ある!のだけれど何だったか思い出せない・・・」。
それが、先の北大のトラクター達に再会してついにランツだと分かったのでした。
矢羽根が少し出た状態。実際はほぼ90度水平まで飛び出して点滅します。 |
※ 2014:06:12追記 ノルマーグの名称について。
この時、私はバカな事にエンジンの銘板しか観ていませんでした。車体側には2つ銘版があり、1つは英語表記の物でTYPE NG20bと参照資料の通りでした。しかし、もう1つは小松製作所による日本語の銘板で小松ノルマーグ、車体形式 NG22 とあるではないですか!
小松にしてみれば戦前のNG22なんて日本に無いのだし、エンジン出力どおり表記した方が(数字が大きいし)正直で宜しいとでも判断したのでしょうか。つまり土の館の表記に間違いは有りませんでした。すみません。また小松の製造番号は1004、ノックダウン生産の4両目の可能性があります。
結論
「NORMAG NG20b」の日本仕様は「小松ノルマーグ NG22」だった。