2013年7月9日火曜日

フォードA型エンジン機関車(後)

前回「フォードA型エンジン機関車(前)」の続きです。

那珂川清流鉄道保存会にてカーナビで調べてみたところ、車で2時間ほどの距離に足尾歴史館が有ると分かり急遽向かう事にしました。

カーナビは最後の最後の入り口で迷いましたが(笑)、着いてビックリ!なんだ!ココは天国か!? 私はこの地に8台も内燃機関車が有るとは知りませんでした。しかも個人的に嬉しいフォード・エンジンのGLが3両と、加藤製作所のGLが3両()もあり、その他の機種も「珍品」に属するものでどれ一つとして無視出来ない物なのでした。

※うち「フォードかつ加藤」のダブリが1両。動態の加藤4t、残る加藤の1両は状態は良くないですが特殊型です。

ちなみに閉館時間は午後4時です。が、私はそれを知らずに3時半すぎに着いてしまいました・・・閉館後までお邪魔しましてすみません!

  ◆◆◆足尾フォード◆◆◆

まずは偉業とも言える2009年制作のガソリンカー「足尾のフォード」。みなさんお馴染み、ネット上には画像も多いので説明は省略します・・・といきなり手を抜いてますが(苦笑)、実はこの地では細部ばかり見ていて車両の全体像等をあまり撮っていませんでした。時間が無かった上に沢山の見どころと、応対して下さったSさんの解説でテンション上がりまくり、帰ってデータを観たら撮り漏らしの多いこと!

Ford Model-A ashio locomotive
「足尾フォード14号車」はグリルとボンネットも乗用車フォードA型の物。この「ハート型は時期尚早と躊躇しているかのようなグリル」は1929年までの前期デザインのようです。ちなみにこの足尾フォードをカーモデルをベースに作ろうとしても意外とA前期型のキットは少なくて、大きなスケールでは設計の古いAMTの1/25くらいしかないと思います。そのキットもとくにディテールが良い訳でもないので困ります。

Ford Model -A engine
このA型エンジンは日本で見つけたものだそう。本体が赤かったりヘッドが無塗装(?)だったりして実用重視の好ましい雰囲気です。本来は濃緑色と思われますが、それだって再現すれば現代人には変に見えるかもしれません。

 
 ◆◆◆加藤3t◆◆◆

おお!ここには鼻血ものの3両が並んでいました!何れも整備中で本来の姿は見られませんが、むしろ普段見れないディテールを観察出来て私的には何倍もラッキーです。

kato works locomotive
先に書いたように私は昨年加わった4両の内燃機関車の存在を知らなかったのです。元は岩手県花巻の伊藤組(北海道のゼネコンとは無関係だそう)が保存していた車両で、この場所の3両はどれも一見してオリジナル度が高い上、搭載エンジン等から考えて戦前のモデルと思われる貴重な物ばかりです。中でも「田中土鉱機」と「米川鉄工所」の2両は現存しなければ存在を知ることも無かった珍品でしょう。

写真一番手前が加藤製作所、次が謎の田中土鉱機で、この2両がフォードエンジン搭載車です。細長い正面窓も両者の特徴でキャビンは伊藤組の注文で架装した物なのでしょう。


ラフな状態ですが上の画像に似た角度から。ボディ分解状態だと完成体では分かりづらい部分も認識できて大助かりです。例えばコレまで台枠裏の肉抜き形状が分からず4トン車を参考にしていましたが、今回裸の3トンを観れた事で違いも分かりました。

エンジン(後部)マウントはクラッチケースの下側で繋がった左右一体の頑丈なもので、そのためか他の機種で見かける「変速機と逆転機の間のマウント」がありません。

kato works locomotive Ford Model B engine
この加藤から外した物と思われるフォード・エンジンがありました。4気筒サイドバルブ、吸気ポートは2気筒集合なのでポート数6穴になります。レストア作業はそれなりに大変そうですが普段からフォードエンジンを動かしている同所であればレストアの最適任者といえるでしょう。

ああ!よく見たらB型のエンジンだ!もっとシッカリ観察しておけば良かった・・・。AとBは外観に少々の違いがありますが、細かい部品の多くには互換性があるのではないかと思います(テキトウ)。

上向き排気マニホールド、Uターンして下向き配管。吸気側はB型オリジナル。
ここでマニアックな話になりますが個人的な大発見!普通とは形状の違う排気マニホールドが加藤の脇に置いてありました。通常の乗用車やトラックでは使われていない『見たことのない』タイプです。

この排気マニホールドの特徴は上向きへ排気する形状ですが、なぜか排気管はグルッと下向きへUターンしています。もし車両設計時から下向き排気にするのであれば、通常の自動車のマニホールドを使えば何も問題ない筈ですから、恐らくフランジから先の排気管だけは何らかの理由で後に作り直された物なのでしょう。

つまりこの排気管の迷走ぶりは、このマニホールド自体は加藤に付いていたオリジナルである傍証になると思います。オリジナルの排気管はココからシンプルに真っ直ぐ上に伸びてエンジンフードを貫通しています。

実は私、コレまでマニホールド部分の資料が見つからず、排気管の正確な位置とディテールが知りたくて仕方有りませんでした。

しかし今回の発見で、「1-2シリンダーの中間辺りから上向きに排気する」マニホールドがCADで描いていた(予想された)位置とピッタリ合致しました。この本物ではフランジ部分が傾いていてその理由も分かりませんがディテールは参考にして良いでしょう。


◆◆◆田中土鉱機◆◆◆

超レアな田中土鉱機なる4トンクラスの機関車。コチラはミッション分解程度の状態だったので搭載状態のフォードA型エンジンを拝めました。加藤の方はエンジン・クラッチ・ミッションがフォードBB(B型のトラック)用と思われるので、田中土鉱機がエンジンと同じくフォードAA(A型のトラック)用だとしたら詳細に見比べる事で何か発見があるかもしれません。エンジンはシリアルナンバーに漢字で「警(?)」の打刻の有る何か曰くの有りそうな物でした。
Ford Model-A engine locomotive
加藤と同サイズ。台枠の盛り上がりが大きいですね。
こちらは吸・排気ともに典型的A型のようです。
シリアルナンバー「K220警(?)」の打刻

余談・・・
フォードの4気筒エンジンは、個人的に大好きなフォードソンFトラクターと(全く別物ながら)形状が似ていて勝手に愛着を感じています。実は福島に存在するフォードソンも見に行ったのですが今回は分解中でカバーが掛かった状態でした。あの姿を見れず残念ではありましたが『マジで動かすつもり!?』という驚きもこの旅の収穫でした。

何だかグダグダで何が言いたいかサッパリになりましたが、これを機にフォードの4気筒SVエンジン(T型,A型,.B型)を搭載した車両に興味を持っていただければ幸いです。


軽便鉄道系リンク
 鶴居村営軌道の軽便2両が移転!
フォードA型エンジン機関車(前)
フォードA型エンジン機関車(後)
加藤くん3DCG
道端に軽便鉄道(狭軌ディーゼル機関車)が!

NPO法人 足尾歴史館

2013年7月1日月曜日

フォードA型エンジン機関車(前)

ここ数年、6月初旬に東北地方に行くついでに長距離ドライブもしています。今年は全く意図していなかったのですが「フォードA(およびB)型エンジンを搭載した機関車」を複数見ることが出来たので記事に残そうと思います。

◆◆◆鶯沢町鉱山資料館 ◆◆◆

宮城県栗原市にある小さな機関車です。参考にしたのは【編集長敬白アーカイブ(細倉の“ABC”。)】 この記事が無ければ私は存在すら知らなかった筈です。エンジンの写った写真も掲載されているので詳しくはそちらをご覧くださいまし。なお、私では掲載写真からはA型かB型か区別がつきませんが、未掲載のディテール写真が沢山あっての断定でしょうか。ぐぬぬ、もっと観たい!(後日見分けがつくようになりました。B型ですね)
 
ABC 機関車 Ford Model A locomotive
ボンネットの長さがほぼエンジン長というなんとも魅力的な機関車。現場ではエンジン本体を見る事はできませんが、もし予備知識が無かったとしてもミッションの形からフォード搭載とは判断出来たと思います。見るからにエンジンありきの「メカ・ミニマム」な上に「マン・ミニマム」(笑)な専用設計なので、中古エンジンの流用等ではなくフォードBの現役当時物じゃないかと思います。

クラシカルなスタイルもあってか感覚的には2tバテロコより小さく感じました(実際どうか分かりません)。何れにしろ驚くほど小さい「謎の機関車」は興味深いですね。大きい模型で欲しいです・・・。

この鉱山資料館は過去に何度か行った鳴子温泉からは15km位の位置なのに存在を知らず勿体ない事をしていました。今回は仙台から一般道で行った為に片道2時間掛かりましたから。

電気機関車 ED202
2013年現在の状況。今は屋根付きで静態保存されています。
↑オマケ、近くには栗原電鉄・細倉マインパーク前駅(2007年に廃駅)があり、そちらには電気機関車ED202が展示されていました。

◆◆◆那珂川清流鉄道保存会◆◆◆

栃木県那須烏山市、昨年、突如存在が明らかになった凄まじい数の鉄道コレクションです。

6月15日当日、昼食中にネットをチェックすると、この日に『初のミニイベント』が行われるとありビックリ!3日前にテレビ「ナニコレ珍百景」で紹介される事に合わせて放送前日に慌ただしく告知していたようです。私は施設が公開されているのかさえも知らずに向かっていたので渡りに船、これは本当に幸運でした!

なお、当日は地元の方もキツいと言う猛暑で道産子の私は蒸発しかけましたが、それでも施設の雰囲気はなんともユルユルで居心地が良かったです。料金所に人がいなかったり(ちゃんと後で払いましたよ)、事務所には生まれたばかりの9匹の子猫がいたり(笑)

どうでもいいけれど、札幌ナンバーの車を駐車場に停めるのは超マニアが遥々来たみたいでちょっと恥ずかしかった(誰も見てないだろうけどw)。

東鉄運輸 加藤 3トン GL
SKW(酒井)グリルの付いた加藤製作所製3トンです。外見はともかく、私にとって理想型である「加藤、3トン、海軍台枠、フォードエンジン」の4条件が揃っている可能性の高い車両です。残念ながらエンジンが見えないので「可能性」となりますが、ミッション形状やグリルの位置から推察するにそんな気がします。排気管も右側にあるので問題ないし・・・もっとも、この排気管は長く延びているのかダミーなのか妙に後方・・・。

元の東鉄運輸にあった頃はどんな状態だったのでしょうか。こういう産業用機関車は実際に使用される過程で大胆に改造されたりしますが、海軍仕様の痕跡は勿論の事、改造過程を知る事も資料として重要なので、できるだけそのままの姿で見たかった気もします。

東鉄運輸 加藤 3トン GL
手書きされたミッション段数、自走可能か!?
↓ついでにもう1両の加藤3トン。 当初私は勘違いしていましたが、こちらがかつて蔦屋建設にあった3両中の1両で、気になる海軍マークはココで復元したものだそうです。 という事は、蔦屋建設に有った本物の海軍マークの個体ではなく、かと言って1両有った憧れのフォードエンジンでもない『残りの1両』(身勝手な言い方w)のようです。確かにボンネット横の張り出しの傾斜が大きいという特徴が残っています。

ただ、元々のグリルはこんなに低くなく、ボンネットは水平だった筈ですし、キャブも復元しすぎな感じで蔦屋建設時代とはまるで別物に見えます。もしかすると入手時点で既に鉄くず化して壊れていたのかもしれませんが、ちょっと悲しいですね。一説によるとまだ他に3トンを所有されている様なので本来のスタイルの公開が期待されます。


 ◆◆◆◆◆◆

フォードA型とは

フォードのA型「乗用車」はかの有名なT型フォードの後継車で、1927–1931年の短い期間に約485万台が生産されました。エンジンは3.3リッターで、サイドバルブ4気筒は同社得意の信頼性の有るものでした。次の1932年型フォードからはV8エンジンが搭載されるのですが、4気筒版もB型として併売されています。AとBのエンジンは細部は異なりますが基本的には同じ様な物といって良いでしょう。

アメリカでは禁酒法時代のギャング映画に必ず出てくるほどのお馴染みですが、ソ連ではGAZ-Aとして1932-1936年に一世代遅れで生産されたようです。ヨーロッパ(イギリス・ドイツ)では課税の都合で排気量を減らしたバージョンが作られ、日本では横浜で組み立てられた物が大阪のシボレーと市場を二分するように普及し、これがアジア向け輸出モデルにもなっていた様です。

このように「フォードA型乗用車」は世界中に見られた訳ですが、完成車体以外にも、エンジン単体の供給やGAZ(AA及びAAAトラックは勿論、装甲車など軍用車両にも使用)も考えると、「A(B)型のエンジン」の使用例、生産数・生産時期などなど、それらの全てを知る事は困難といえる程に多岐にわたると思います。


個人的には・・・、以前からフォードA型エンジンには興味がありました。1/25プラキット等を参考に1/35スケールのエンジンをスクラッチしたり、同系のフォードB型エンジンを搭載するロシアン・ ジープ「GAZ-67」のディテール写真集に萌えたり・・・。製作中のCAD加藤もフォードエンジンありきで進めています。

 ところが、このエンジンを意識するようになって10年以上経ちますが、今年の春に見つけた「謎のトラクター」までは実際に見る機会は有りませんでした。そして今回の旅で一気に複数を見られて大喜びしているというわけです。


大正期のトラクターですが結構大掛かりな改造がされています。
なお、記事が長くなった為に前・後編に分けていますが、もしSKWグリルの加藤がフォードエンジンでなかった場合は、今回は該当するのが1両のみで非常に間抜けな記事となります(笑)

フォードA型エンジン機関車(後)に続く・・・ 


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フォードA型エンジン機関車(後)
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